一章・真夜中の自販機

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田園都市線での乗り継ぎ、横浜線の終電に間に合わずに一駅の距離なので長津田駅から歩いていた。 会社を突然退職した先輩と三軒茶屋で飲み、酔っ払って会社の愚痴とバカ話に盛り上がった果ての酔い覚ましコースである。 そして246号線を横断する歩道橋を渡り、住宅街をふらふらと歩いている時それに出くわした。 それは夜の闇の中で異様に輝いていた。 「いいか。それはパチンコ屋の照明みたいに通りを煌々と照らしているんだ」 日本酒の冷酒を飲みながら、先輩が言っていたセリフである。それを想い出した。 酔いで浮かれた心が笑いを誘う。 サーカス団の魔術師がその横に立って手招いているのを想像した。 「その自販機は人生に迷った人間を誘うように真夜中の通りで誰かを待っているんだ」
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