一章・真夜中の自販機

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先輩はそう言って大笑いしていた。 テーブルの近くにいた客も面白そうだと盛り上がり、もしそんな自販機があったら運試しに買ってやると生ビールを飲み干した。 僕も同感です。と頷いて笑っていた。 しかし、先輩はあんな話を最後にして僕に何を伝えたかったんだろう? 僕は喉の渇きと、好奇心でそのひっそりとした通りにある自販機に近寄った。 風は生暖かく、青い月は濁った夜に霞んでいる。 新品の機種なのか、ピカピカとしていて正面の電光掲示板がルーレットのように輝いて回った。 「ロシアンルーレット?」 僕は思い出し笑いをしながらコインを入れた。 酔い覚ましにと冷たい缶コーヒーのボタンを押す。 すると、ルーレットは点滅して高速で回転してからゆっくりと止まった。 ただそれだけ。 出てきた缶コーヒーを取りだし、一応匂いを嗅いでから一口だけ飲んでみた。 甘く苦い香りが先輩との別れの味となって心の中に染み渡った。 そしてそれを飲みながら歩いていると、背後で何か軽快な音がした。 驚いて振り向くと自販機のルーレットがピコピコし、コロンと飲み物がもう一本出てくる音がした。 僕は何か気味が悪くなって、そのまま逃げ出したのである。
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