二章・毒のドリンク

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翌日の朝、僕は軽い二日酔いで会社に出勤した。真夜中の通りの恐怖体験は夢みたいな記憶しかない。 走って逃げたその恥ずかしさの方が心に残っていた。 そして、自分から聞く必要もなく先輩が退職した理由の話題が耳に入ってきた。 「田仲さんと吉田部長って犬猿の仲だったからね」 「どういうことすか?」 「俊哉くん。知らなかったの?」 給湯室でお茶を入れていた事務のおばさんが教えてくれた。それはとんでもない事件だった。 「仲が悪いのは知ってだけど。そんな揉めてたんですか?」 「だから、殺人容疑をかけられたのよ」 「えっ?」 その古株の事務のおばさんによると、吉田部長が出社するとデスクの上に缶コーヒーが置いてあったそうだ。 誰かが気を利かせて眠気覚ましに置いてくれたと思って、吉田部長は飲もうとしたが変な匂いがしたらしい。 「除草剤が入ってたんだって」 「う、嘘でしょ?」 「あんたに嘘言ってなんになるのよ。その嫌疑をかけられて田仲さん辞めたのよ」 「認めたんですか?田仲さん」 「監視カメラに映ってたのよ。毒が入ってたかは知らなかったと言ったらしいけどね」
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