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店員が恭しく持って現れた剣を、師匠は受け取り、静かに鞘から抜いた。
「魔金の広刃剣か。加工は素晴らしいな。扱いやすくもある。癖からしたらウェールかな。若いけど良い鍛冶師だ。いずれは国を代表する創り手になるはずだ」
師匠は、手拭いで丁寧に剣を拭って店員に返した。
師匠のこんな気配りを見るのは初めてだ。
店員の様子が少し変わった。
慇懃無礼に見えていたのが、含んでいるものがなくなった。
「はい、その通りで」
「この剣は良い出来だが、俺が欲しかったのはルーペースの神銀の長剣だ。しかしルーペースは留守みたいだからな。また気が向いたら寄らせて貰うよ」
今度ははっきりと店員の顔色が青くなった。
「店主は最近体調がすぐれない様子なのです。宜しければ、お名前をお聞かせ願えませんか」
「ポポだ」
師匠は勿体つけて真剣な顔で答えたが、茫然とする店員が気の毒ですらあった。
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