僕が辿りついたのはお気に入りのこの店

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「ここが『十字路堂』だ。大陸でも五本の指に入る大店だな」 古い煉瓦づくり、床はぴかぴかに磨き上げられた大理石だろうか。 トコトコと無造作に店に入っていく師匠。 僕も慌ててついて行った。 若い何人かの店員が、僕らを訝しげに遠巻きに見ている。 つまみ出されはしなかったが、隙があればそうしたいような雰囲気が痛い。 「せっかくだから良ーく見とけ。魔道具にも流行りはある。追い求める必要はないが、少しでも高値で売れるからな」 店内に置いてある品は華やかで、どれも繊細に見える。 師匠が、簡素で古風な加工をするのとは正反対かもしれない。 「そうだな、この店で一番高い品を見せてくれるか?」 年嵩の店員に、師匠が声をかけた。 さすがに売り場の責任者と思われる店員は動じずに、頭を下げて店の奥に消えた。 「師匠~、居心地悪いです~」 僕はたまらず師匠に訴えた。 「耐えろ。これからが見ものだぞ」 師匠は柄の悪い笑みを浮かべている。
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