カフェ店員のやんごとなき事情

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 仕事の邪魔をしないよう、あまりは、そっと書類の隙間に珈琲を二つ置く。  だが、手前の男が、その整った顔を上げてきた。  思わず、目が合う。  ……ヤバイ。  この顔、間違いないっ、と思ったのだが、男は、 「ありがとう」 とだけ言い、また視線を落として、話し始めた。  よかったーっ。  覚えてなかったみたいっ。  神様、ありがとうっ、とふいに教会付属の幼稚園を卒園して以来、拝んだこともない神様を拝みたくなる。  一緒に居た男が帰っても、問題の男の方はまだ書類を見直しながら、珈琲を飲んでいた。
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