カフェ店員のやんごとなき事情

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 ふう。  やれやれ、とトレーを戻しに行きながら、カウンターのガラスケースの中のベーグルやクロワッサンを眺める。  今日のまかない、なにかな~と呑気なこと思っていると、カウンターの中に居た成田に、 「あまり、外」 と言われた。 「あ、はい」 と一度行った気安さから、あまりは、なにも考えずに、さっきの男の近くのテーブルを片付けに行く。  鼻歌まじりにテーブルを拭いてしまい、あっ、しまった、お客さん居るのにっ、と思ったとき、後ろから声がした。 「ご機嫌だな、南条あまり」  よく響く低いのに甘い声だ。  こんな場面じゃなかったら、どきりとしてしまいそうだ。  一瞬、逃げちゃおっかな~、と思ったのだが、ガラスの向こうにはマスターと成田が居る。
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