ギャンブル依存

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行ってくるね、と車を出るお母さん。 笑顔で車を出るお母さんを、ボクは笑顔で見送るのだ。 行ってらっしゃい、早く変えてきてね。と…。 お母さんの行くところは分かっている。 あの、じゃらじゃらしたお店。 警察の人や怖い人がよく出入りしているからいい場所ではないのだろう。 お母さんはそこに毎日通い詰めて一度入ったら夜中まで帰ってこない。 多分今日も遅くなるんだろう。 ーーー 「すみません、警察です」 井村は警察手帳を店員に見せた。 ぎょっとする店員。 「な、なんですか…」 と上ずる声。無理もない。 (パチンコ屋も大変だな…) と思いつつ警察手帳をしまう井村。 「駐車場ってどこですか」 と早速本題を切り出す。 タレコミがあったのだ。 この近くに子供を夜遅くまで車に乗せたまま放置している車があると。 最近で親の子供に対する虐待や暴行などの事件が多い。 もっとひどいとそれが殺人なんてことになってしまう。 ため息だって自然と出てしまう…そういうもんだ。 キャッキャとはしゃぐ子供の声がする。 振り向けば母親とじゃれている小学生の姿。 上の階のゲームセンターにでも来たのだろうか。はしゃぎながら店の中に消えていく。 「やるせないな…」 再び漏れるため息。 「どうしたんですか」 背後の親子に気を取られていたからだろうか。 店員が立ち止まったことに気が付かず、彼にぶつかってしまった。 「これは失礼」 「こちらの車ですよ」 覗き込む井村。 車内からは2歳くらいの男の子がこちらを不思議そうに眺めていた。 ーーー ボクの車の中での日課は窓の外を眺めることだった。 車の外にはいろんな人が、いろんなものがあふれている。 お母さんが寂しくないようにって持たせてくれたぬいぐるみももちろん好きだけど、ボクは何よりお母さんが帰ってくるのが待ち遠しかった。 さっき、お母さんが消えてったお店の方に別のお母さんと子供が歩いている。子供の方は小学生くらい。お母さんに手を引かれ、楽しそうだ。 なんで、ボクのお母さんは、ここにいないんだろう。 ちょっと悲しくなりながら座りなおす。 トントン とノックされる窓。 そこにはボクのこれからの運命を変える人が立っていた。
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