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「愛島養護施設」
市が運営する養護施設らしく身寄りのない子供や、虐待され児童相談所から保護されてきた子供たちが暮らす施設。
この施設からは抜け出せないし、誰も迎えになんか来ない。
来た時に先輩だった二つ上の男の子に教わったが、それは事実かもしれない。
実際、私をここに捨てた母親もいまだに迎えに来ない。
うらやましいと思うよ。
たまの休みに街に出てみる家族。
仲良さそうに歩く家族。
そこにあるのは「当たり前」なんだろうか。
人間不信になりかけたその時、私を連れてきたおじさんが養護施設に一人、新入りが入ってきた。
「新しい家族だ」
おじさんはそう言った。
ちょっとTシャツにジーンズの少年。
「その子は」
院長が聞く。
「駐車場で捨てられてた。母子家庭でギャンブル依存の母親が夜遅くまで連れまわしていたらしい。命の危険を察して児相が保護した」
「訴えられないですか」
「大丈夫だろう。手順は踏んでる」
私は毎回このやり取りを聞いていて院長とおじさんの関係って何なんだろうと思ったりする…。
まあ、子供の私は物陰からやり取りを聞いてるしか何もできないんだけどね。
「麻衣」
院長が私の名前を呼んだ。
はっと顔を上げる私。
話を聞いてるのがばれたか。
「こっちに来なさい」
無言で私を見つめるおじさん。
その視線に感情はいつもない。なんか気味が悪い。
「何」
言われたとおりに院長のもとに行く私。
男の子は2歳半くらいの男の子だった。
やっと歩けるようになったという頃だろうか。
おじさんに寄りかかって立っている。
「新入りだ」
冷たく言い放つおじさん。
「知ってます」
なんか人に冷たくされるとこう…冷たくし返したくなるよね。性格悪いのかな私の。
「麻衣」
院長の声に振り向く。
「仲良くしてやってくれ。麻衣なら仲良くできると思うんだ」
私は院長の優しくて暖かい声が好きだ。
その声を聞くと私を捨てた親なんかどうでもいいと思えるほど…いや、それはないけどこの人が私の親だったらと思ってしまうくらいには好きだ。
この人からのお願いだったら私は何でも聞くだろう。
だけど…この少年の目は。
「瑛というらしい」
そんなおじさんの言葉、どうでもよかった。
瑛という名の少年は人を受け入れない目をしていた。
(少し前の私みたいだ)
これは私と瑛の未来を切り開いていくお話。
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