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始めに居た部屋へと戻ってきた僕は、すぐさま扉を閉める。そうして、しばらく呆然と立ち尽くしているとようやく落ち着きを取り戻した。
「何だったんだよ。あれは……」
あの引っ掻き傷は……文字は、異常だ。そうとしか言いようがない。ただ、それが分かったところで何の解決にもならないことも事実だった。
と、そこで、情報が見つかるかもしれない存在が目に入る。
『冒険の書』。謎に包まれたそれは、もしかしたら何かの情報を更新しているかもしれない。
『第一フロア 地帯区分B
滝野透はB地帯へ進行
これより危険地帯
『嘆きの証』を見つけた
危険レベル上昇
危険レベル上昇
地帯区分Dへ変更開始
変更は三日後
それまでにレベルアップを推奨
第一フロア 地帯区分A
滝野透はA地帯へ退却
これより安全地帯 』
良く分からない文章が更新された『冒険の書』を見て、僕は、なぜか背筋に鳥肌が立つのを感じる。内容の意味は全く読み取れないものの、どうしてか、それは危険だと本能が訴えていた。とにかく力をつけなければならないと、魂が訴えていた。
「『嘆きの証』、レベルアップ……『嘆きの証』はあの文字だとして……レベルアップ、まるでゲームみたいだな」
そう考え、僕はその続きも読み解いていく。
「この『嘆きの証』を見つけたせいで、何かの危険レベルが上昇したと。そして、それに対抗するにはレベルアップしなきゃならないと……モンスターでも出るのかな?」
ハハハと乾いた笑いをもらしながら、僕は扉の方へと振り返る。もしも、モンスターがいるのであれば、ここはダンジョンみたいな場所ではなく、正真正銘のダンジョンである可能性が出てくる。
「……平穏な生活、どこ行った?」
一気に環境が変わって、しかも、危険がありそうな場所に放り出されて、僕はようやく危機感を持ち始める。このままここに居ることが酷く危ういことのように思えて、じっとりと汗が頬を伝う。
「うん、今度はあの引っ掻き傷があった場所に出ないよう、別の道を通ってみるか」
そして、『冒険の書』も持っていこうと、僕はリュックの中にそれを詰め込む。『冒険の書』に書かれている情報がすぐに知りたい時、手元にそれがなかったら大変なこともあるかもしれないという思いからの行動だった。
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