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「ってことは、この鎧も……?」
そう考えると、途端に今の状況が怖くなった。いや、先程までも怖くないわけではなかったものの、今は現実を理解するにつれて余計に恐怖心が増したのだ。
「何なんだ、これ……」
少なくとも、夢ではない。夢であればどんなに良かったことかとは思うものの、鎧を着て寝ていたせいで体の節々が痛みを発している。夢だと疑う余地などなかった。
改めて襲い来る現実感に、僕はとにかく状況把握から始めることにする。もしも、これが誘拐であるなら、犯人は何かしらの目的を持って、僕にこんな姿をさせているということになる。
剣が本物って時点で、嫌な予感しかしないんだがなぁ。
すでに自分が犯罪に巻き込まれたであろうことを前提に、僕は気を引き締める。何があっても、すぐに対応できるよう、剣もしっかり握っておく。
「……ん? これは……本?」
何か手がかりになるものでもないだろうかと探していると、枕の下から、随分と分厚い本が出てくる。
「『冒険の書』?」
妙に硬い質感の、白を基調とした表紙に書かれていたタイトルは、『冒険の書』。何だか、これからゲームでも始まりそうなタイトルだ。
ページを捲ってみると、赤い文字で書かれた文章が飛び込んでくる。
『冒険の書
一日目
第一フロア 地帯区分A
ようこそ、冒険の舞台へ。
あなたは勇者に選ばれました。
勇者として、魔王を討伐しましょう。
その暁には、あなたの親友が帰って来るでしょう』
そこには、意味の分からない文章が書かれていて、僕はついつい首をかしげる。
「何だこれ?」
まるでゲームの説明のような……いや、それにしても幼稚な内容に、僕はどうにかその意味を理解しようとする。
「勇者、魔王討伐…………異世界トリップでもしたとか?」
最近良く読む小説の中には、勇者として異世界に召喚されるというものが多い。そのため、そんな考えをしてみたものの……。
「まさかな。現実にそんなこと、あるわけないし」
モンスターにでも遭遇すれば考えを改めるかもしれないが、ひとまず、今のところは誘拐されたという線で考えるのが妥当だろう。……そう、妥当なはずだ。
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