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「あれ?」
自分で自分を納得させていると、ふいに、僕は『冒険の書』の文章の変化に気づく。
「……ない」
先程の『ようこそ』から始まるくだりの文章が消えていた。まるで、最初から、そんなものは存在しなかったかのように……。
「……これ、紙じゃ、ないのか?」
いきなり消えた文章を見て、僕はこの『冒険の書』がタブレットみたいな何かかと疑ってみる。しかし、どんなに質感を確かめてみても、それは紙以外の何物でもなさそうだ。
「本当に異世界トリップだったら、洒落にならないんだけど……」
若干、頬を引きつらせた僕は、そうなると、ここはさしずめ城のどこかだろうかと遠い目で考え込む。異世界トリップの定番では、大抵、主人公は城に召喚されるものだ。……巻き込まれ系主人公とかいうパターンなら、森の中もありだが、一応ここは建物の中らしいので、それはないだろう。
そして、もう一つ気になるのは、『親友が帰ってくる』というくだり。まるで、親友はこの世界で人質に取られているかのようだ。
「いやいやいや、まさか、まさかだよな?」
できることなら、自分が主人公の物語なんて勘弁してほしい。
何が悲しくて、山あり谷ありの波瀾万丈な人生を送らなきゃならないんだ。平凡が一番なんだよっ!
とはいえ、現代科学で説明ができるかどうか良く分からない現象が目の前で起こったことは事実だ。
高校生にもなって、夢と現実の区別がつかないということはないが、きっと、これ以上摩訶不思議な現象にさらされ続ければ、僕はここが異世界だということを認めるしかなくなるような気がする。
「よし、異世界かどうかは、ひとまず置いておいて、探索続行だなっ」
今は考えても分からない。それどころか、考えれば考えるほどにドツボにはまる気がして、僕は思考を一時打ち切る。
今優先すべきは、状況把握。それだけを目標に、僕は部屋を探し回った。
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