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いきなり僕が消えて、きっと両親も琴音も心配していることだろう。
やることがなくなった途端に心を占めるのは、簡単に誘拐されてしまった自分自身への不甲斐なさだった。そうして、一から状況整理を始めることにする。
「まず、僕は誘拐された。そして、本物の甲冑と剣を装備させられ、変な機械みたいな本と一緒に閉じ込められてる。……うわっ、整理しても何が何だか分からないぞ、これ」
犯人の目的も、この場所の手がかりも、何一つ分かることがない。
「あぁ、後は、もしかしたら、彰の失踪にこの事件が関係してるかもしれないって……こと…………もしかして、僕も居なかったことになってたりして?」
彰の存在は、そもそもなかったこととして世界が動いていたことを思い出し、僕は焦る。もしそうなら、助けなんて期待できない。それだけではなく、僕を誘拐した犯人は、何か超常的な能力を持っている可能性が高い。
「……思った以上に、不味い状況かも?」
そう思ったら、じっとなんてしていられなかった。
扉らしきものに駆け寄り、僕はそこをドンドンと叩いて声を出す。
「おいっ、誰かっ! 誰か、ここを開けてくれっ! 誰かっ!」
しかし、どんなに叫んでも、返ってくるのは無音のみ。
「くそっ!」
あまりにも反応がないことに苛立った僕は、扉を蹴りつける。ただ、その瞬間、思っても見なかったことが起こる。
「え?」
蹴りつけ、少し扉を押し上げるような形になった瞬間、扉の下に、小さな隙間が空いたように見えたのだ。
「……もしかして……?」
僕は、腰を屈めてしゃがみこむと、扉の下の方の蔦を掴む。そして……。
「あっ……」
案外軽い手応えで、扉は上へとスライドしていく。そう、つまりは、この扉はシャッターのように上に持ち上げて開ける仕組みのものだったのだ。
「……普通、分かるわけないだろ」
簡単に開き、そして手を離すとその場で止まる扉を見て、僕は大いに脱力する。しかし、扉が開いたことは喜ばしいことだ。僕は、ゴクリと唾を飲み込むと、扉の先へ、一歩、踏み出したのだった。
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