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8   嵐は止まず、次の日も宿に降りこめられたまま。  あてがわれた狭い部屋は湿気が籠ってなんか臭いし、暖炉の前を占領している商人たちに近づくのもいやで、ノアは小馬に会いに行こうと、中庭に出ていった。  中庭を挟んで建っている母屋と厩と納屋は差し掛け屋根の通路でつながっていて、濡れずに行き来できるようになっている。  厩のほうに歩いて行くと、どこからかしゅっ、しゅっという音が聞こえてくる。  気になって近づくと、馬房がいくつも並んでいる大きな厩で、昨日ののっぽの大男が大きな剣に砥石をあてて手入れをしていた。慣れた手つきで指の腹を刃にあて、研ぎ具合を確かめながら。  男の足元では厩の猫がのんびりと毛づくろいの最中。  隣では若者が馬具に油をすり込んで磨き、後の二人は馬房の中で馬にブラシをかけている。 「休息中の冒険者」という一幅の絵になりそうな、光景。  ぽかんと見とれていたノアに気が付き、大男は軽くうなずきかけて、また手入れに戻る。 「よう、坊主。  お前も馬の世話に来たのか?」  馬具の手入れをしていた若者が声をかけた。 「馬もちっけえが乗り手もちっこいな。  昼飯代わりに頭から喰えそうだ」  ひるんだノアに、けけっとワルぶって笑う。   「堅気の坊やをおどすんじゃない」  へえへえわかりましたよと、軽薄そうな若者は舌を出す。  それがノアが初めて出会った、冒険者の姿だった。  
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