453人が本棚に入れています
本棚に追加
「おお、おお、召喚は成功じゃ!
見よ!この素晴らしき獣を!
これこそ我に相応しき最強の従魔なるぞ!」
壇上で、黒い短刀を振り回しながら年取った雄が叫んだ。
しなびた小さい人族の雄。
魔導士か。
その魔力に拘束された数頭の人族が、前に佇んでいる。
屠ったばかりの、未成熟の雄の子の死体が魔導師の足元に崩れ落ちる。
『従魔だと?』
この俺様を従属させようなどと、愚か者めがっ!
獣は怒りの咆哮を上げる。
どん!と、獣の闘気の波動が、結界にぶち当たり、持ちこたえた結界が軋み、辺りを揺るがす。
胡座の雄たちが怯み、詠唱が乱れる。
「ええい、臆病者めら。怯むな!結界を維持しろ!」
叫んだ魔導士は、次の生贄を掴んだ。
薄紫の長い毛を乱した、紫の眼を持つ若い雌が、獣に顔を向ける。
悲しみでいっぱいの紫の瞳が、獣をひたと見つめる。
声にならぬ、嘆願。
魔導士の振り上げた黒い刃の石の短刀が、雌の胸に深く突き立つ。
短刀が雌の魔力を吸い上げて、魔導士の身体に流し込むのがわかる。
獣を見つめたまま、苦しげに喘ぐ雌の瞳から、命の灯が消えていく。
魔導師が新たに唱え始めた言の葉と共に、力を増した鎖がぎりぎりと獣を締め付ける。
「諦めよ!我に従え!」
『だ・・・れが・・・命令なんか・・・きくかよ・・・』
拘束の鎖を物ともせず、獣は身を起こそうとする。
皮膚を破り、肉に喰い込む鎖。
吹き出す血潮に魔導師があわてて声をあげる。
「やめろ、無茶をするな、その見事な体に傷がつくっ!」
『大きな・・・お世話だ・・・ぜっ!』
最初のコメントを投稿しよう!