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2  生まれ出て、十日が過ぎた。  母と共に大切にされていた俺の首筋を、いきなり乱暴につかみ上げた奴がいる。 「何だこいつは」  まだ眼が開いたばかりの俺をぶらぶらと揺さぶる。  母が心配そうな声を上げた。 「黒地に白の星を持つ猟犬が生まれるはずじゃないのか。  一番良いのを僕がもらうはずだったのに。  こんな・・・泥色のチビが一匹だけだと?」  俺たちに仕えていた人族の老人が丁寧に答える。 「この犬はもう三度出産しとりまして、毎回自分と同じ色の子を三、四頭生んどります。  今回のようなことは珍しいので・・・しかし、大きく丈夫な良い仔犬でごぜえますよ」 「汚い!僕のポニーに色をあわせた、黒い仔犬が欲しいんだ!  こんな泥色のやつなんか、いらない!」  こいつ・・・口臭っ  それに、唾を飛ばすな!  その上強すぎる薔薇香油が、俺の敏感な嗅覚を刺激した。 『へぷしっ!』  あ、すっきり。 「こいつっ!」  子犬の鼻水をもろに顔に浴びた少年は、振り上げ、床に叩きつけようとする。  すさまじいうなり声。  母が少年の前に飛び出し、白い大きな歯をむき出して威嚇した。 「ヒッ・・・」
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