もう一つのエンディング

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 数年後  寂れた商店街の北の外れで、<時の隠れ家>はひっそりと時計店を営んでいた。    間口の狭いその店のショーウインドウには、5、6才児の背丈ほどの大きな砂時計が飾られていた。  繊細な彫刻が施された木枠の中に、美しいフォルムのガラスがくびれを作っている。 奇妙なことに、真っ白の砂はすべて上の部分に溜まっていて、落ちる気配もない。    客のいない店では、たくさんの柱時計が時を刻む音だけが規則正しく空気をふるわせていた。カウンターでペーパーバックを読んでいたローランは、ふと窓外に気配を感じて顔を上げた。 「呼子」 「どうしたの?」  奥から顔を出した呼子に外を見るよう促す。    ショーウインドウの砂時計の前にたたずむ親子がいた。父親と母親の真ん中で食い入るように砂時計を見つめる男の子。三歳ぐらいだろうか。  呼子は入り口のドアに近づき、外の会話に耳をすませた。 「私、なんだか軽い気がする」 「重いだろ、この大きさで砂が一杯詰まってるんだぞ」 「うーん、でも軽いよきっと」 「ママ、持った事あるの?」 「え?・・・ないよ」 「鞠子、行くぞ」 「ママ、行こう」  子供に手を引かれた鞠子は、一度だけ振り返り去っていった。     「良かったな」  ローランの言葉に、呼子の口元から、ふっと小さな微笑みが溢れた。 (Fin.)  
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