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織る絵と書いて、織絵(おりえ)と読む。私の名前だ。名付けたのは、母方の祖母である。 絵とは魂のことを指しており、魂を盗られないように、織り重ねて隠すという意味が込められている。 祖母は一族のなかでも変わり者として畏怖されていたが、私には良き理解者であった。 母は私が五歳の時に離婚し、寿退社をした印刷会社に出戻り、夜の九時より前に帰ることはなかった。そのため母は、毎日のように私を祖母宅へと預けた。 祖母の家はJR水道橋駅から歩いて二十分。かつては木造の一軒家が並んでいた街並みがコンクリートジャングルへと様変わりするなか、こぢんまりとした木造の家を、祖母は一生涯建てかえなかった。築何十年というから、雨漏りもしばしばであったのが今では懐かしい。 両親の離婚のおかげで、私の名字は祖母と同じになっている。母方の血筋は遠く青森から流れてきたもので、私は自分と同じ名字の人間と逢ったことがない。私の名字を、初対面で間違いなく読めた者は一人だけだ。漢字をそのまま読むのは間違いであり、深読みすればドツボにハマる。パズルゲームのような名字と云っておく。     
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