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名字には、先祖の仕事が反映されている。殿様に召し抱えられ、代々、主の奥方や娘たちのために筆を走らせてきた絵師だという。墨一色ではない。青森から産出される鉱物を溶かし、色を交えて描いた。石を絵に混ぜることは厄除けの意味もあり、腕も良いからと長い間重宝されたとか。
絵師の生業はとうに廃業し、名と血筋だけが残る。いや、祖母がいた。祖母が我が栄光ある血筋の、最後の後継者であろう。母は猫すらまともに描けない。そして、私も母を笑うことができない。
祖母は絵本の挿絵画家であった。
八百年という長い月日にもまれた、一子相伝の技術を駆使し、あらゆる世界を描いた。アクリルや水彩とは違う、祖母の絵にもまた鉱物が散りばめられていた。顔料は納戸にぎっしりと整頓され、私が石の誘惑に負けて忍び込もうものなら、優しい祖母が、その時だけは閻魔様のように怒った。
石にも機嫌がある。へそを曲げたら最後、もう二度と、こちらの希望する色にはなってくれない。
祖母の大事にしていた鉱物だが、彼女が亡くなり、母が家を売り払う際にほとんどが廃棄された。そのことを知らされていなかった私は怒り狂い、それ以降、母とは顔も合わせていない。
「織絵、今日は満月だね」
おやつは三時のみ、食事の野菜を残すことは禁止、夜更かしなんてもってのほか。躾にきびしい祖母が、満月の晩だけは、特別を謳歌した。
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