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夕飯を食べたあたりで、玄関に備え付けてある黒電話を耳にあてがう。 「どうも、〇○○でございます。へぇ、今日も二名で。私と孫の二人でございます。へぇ、十時ごろにお伺いしようと思います。支度致しますのでね、ちょっと遅くなってすみません」 祖母は黒電話をおくと、さっそく私に振袖を纏わせる。蛍光灯の下でくるくると回されながら、重くて窮屈な振袖の時間は、苦痛でしかなかった。祖母は慣れた手つきで、私をお姫様に仕立て上げると、その後に自分もよそ行きの着物を箪笥から出して、皺の刻まれた頬に白粉をはたいた。 鏡に映るしわくちゃの祖母が、少女のような眼をして化粧をしているのが、当時の私にとってはアンバランスで、見てはいけないものを見ている気恥ずかしさに襲われた。着崩れないようにと座らされている椅子で、足をぶらつかせながら、ずっと俯いていた。 だいたい、九時に家を出る。履きなれない草履のせいで転びそうになっている私の手を、祖母は問答無用で引っ張る。私のために立ち止まることはしない。時間に遅れてしまっては、先方に迷惑が掛かるという焦りに駆られているのだ。満月だから、二人分の影がくっきりと追いかけてきた。私は影から逃げるために、必死に祖母の手に縋った。     
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