#0:執事には名前がない

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#0:執事には名前がない

「執事に名前はありません。ただ『執事』と……。そう、お呼びください」 彼は静かな声で言いながら、私に向かって丁寧に頭を下げた。 その様子は洗練されてて、目を奪われるほど美しかったけど、同時に、どこか物悲しさを感じてしまう。 だって、従者と主には近づいちゃいけないラインがあるんだって、ハッキリと示されたような……。 距離を置かれたような。 そんな雰囲気がしたから。 でもね。 私はあなたを知りたいし、ダメだって言われても近づきたいの。 だって、好きなんだもん。 大好きだから。 あなただって、こんな悲しいことを言いつつも、きっと同じ想いのはず……、だよね? 信じてるから。 私は寂しさを隠しながら、ほほえんだ。 ねぇ。 『執事』に名前がないのなら、私だって名前なんかいらないよ。 あなたの前では私はただの、『お嬢さま』。 ……『お嬢様』。 それでいいわ。
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