0人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
#0:執事には名前がない
「執事に名前はありません。ただ『執事』と……。そう、お呼びください」
彼は静かな声で言いながら、私に向かって丁寧に頭を下げた。
その様子は洗練されてて、目を奪われるほど美しかったけど、同時に、どこか物悲しさを感じてしまう。
だって、従者と主には近づいちゃいけないラインがあるんだって、ハッキリと示されたような……。
距離を置かれたような。
そんな雰囲気がしたから。
でもね。
私はあなたを知りたいし、ダメだって言われても近づきたいの。
だって、好きなんだもん。
大好きだから。
あなただって、こんな悲しいことを言いつつも、きっと同じ想いのはず……、だよね?
信じてるから。
私は寂しさを隠しながら、ほほえんだ。
ねぇ。
『執事』に名前がないのなら、私だって名前なんかいらないよ。
あなたの前では私はただの、『お嬢さま』。
……『お嬢様』。
それでいいわ。
最初のコメントを投稿しよう!