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「では、これにてお開きということで・・・。」
「ふ~、食った食った。」
「お主、また肥えたのではないか?」
「うむ。これほど天下泰平じゃと、儂らの出番はないからの。
武芸に励むのもばからしゅうて。」
「ほんに。 刀も錆びてしまうわ。」
「がはははっ・・・。」
「んっ・・、よっこらしょっと。」
宴の終わった座敷で、男たちが上機嫌でふらふらと立ち上がる。
「お~、首まで赤く染まってなんと艶やかな・・・。
酔っておるのか? 儂が送って進ぜよう。」
「いえ、大丈夫ですから。」
「今宵の月はまた格別に美しいが、
お主の美しさに比べれば・」
「それはどうも。」
歯の浮くような台詞を代わる代わるかけてくる男たちを躱しながら
菊池が席を立つ。
「菊池殿、この後、一献いかがかな?」
「いえ、私はこれで失礼いたします。」
「いや、そう言わずに儂と・」
最後まで言う前にその場から消えている。
「ほ~、けんもほろろとはこのことじゃ。」
「ほんに。 どこぞの女子にでも通っておるのか?」
「う~む。 そんな噂も聞かぬな。」
「それとも重時様以上の大物でもつかまえたか?」
「いやいや、だいたい重時様との噂はまことだったのか?」
大声で話す声が廊下にまで聞こえてくる。
まったく、口さがない雀どもが・・・。
苦々しい思いで屋敷を後にする。
「ふ~・・・。」
夜の冷ややかな空気に触れて、
やっと息ができるようになった気がする。
確かに今宵は月が美しい。
空のまだ低い位置に、ほぼ真円の大きな月が浮かんでいる。
夜道を辿るのに灯りがいらぬほどだ。
大通りを逸れ、川沿いの柳並木の小道に差し掛かる。
「旦那、舟遊びなぞいかがです?」
突然、柳の木の下から声をかけられる。
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