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行平たちが逃れた島にも、同じように落人の隠れ里があったのだ。
里の人々も快く受け入れてはくれたのだが、
なんといっても食い扶持が増えるだけの生産量がない。
いつまでもやっかいになるわけにはいかなかった。
本土に渡ることも考えたがあの人数では目立つ。
結局一番安全な道は、島に戻ってくることだったのだ。
高光の手引きで母の元へも顔を出した。
表向きは落人と戦って命を落としたことになっているため、
領地も家屋もそのままに、生活には不自由のないよう配慮されていた。
あらかじめ菊池から真相を伝えられていた母は、
行平と会える日を心待ちにしていたようだ。
勿論、龍との事を即座に受け入れるというわけにはいかないようだったが、
行平の決断にある程度の理解は示してくれた。
いずれ時期を見て、龍を連れて会いに来よう。
きっと龍と話せばわかってくれるはずだ。
「で、なんです?」
「ま、ま、一献。」
警戒心むき出しの表情の菊池に、行平が酒を勧める。
「実は頼みがあるんだ。」
「は~・・・、もうあなたたちに関わるのはごめんですよ。」
「まだ何も言ってないだろ。」
「あなたの考えていることくらいわかります。
情報提供しろってことでしょ?」
「ふふっ、察しがいいな。
侍所に不穏な動きがあったら、俺達に知らせてほしいんだ。」
「今回のような落人狩りが計画されたらということですか?」
「ああ、それ以外にもあの島への流刑が決まった時とか、
政権に大きな変化があった時とか。」
「ま、構いませんけど・・・。
知らせるといってもどうやって?」
「俺は定期的に島を出て、
あちこちの隠れ里と連絡をとっているんだ。
だから、ここにも顔を出すよ。」
高光が引き取って答える。
「ふ~。
で、私に何の利があるんですか?」
菊池が白い喉を見せて杯をあおる。
「ふふっ、そうくるだろうと思ったよ。
これでどうだ?」
高光が懐から、紫の布に包んだ物をそうっと取り出す。
中から現れたのは手のひらほどの大きさの赤珊瑚であった。
血のような深紅の色合いが美しい。
都でも赤珊瑚は、厄除けや、
かんざし、根付などの装飾品として人気が高い。
このように色の濃い物はめったに手に入らぬ逸品だ。
しかも細い先端部分まで木の枝のように広がった美しい造形は
そのままでも美術品としての価値が高そうだった。
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