島流し

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  「遠島申し付ける。」 やはり・・な・・・。  死罪ではないだけまだましか。  少しは後ろめたい気持ちがあるのだろうか。 形ばかりに頭を下げながら、 結城行平(ゆうきゆきひら)は自分を陥れた連中の顔を思い浮かべていた。 死罪を免れたという安堵感と共に、事実上の終身刑となる遠島という裁きに、 奈落の底に突き落とされたような絶望感に苛まれる。 翌朝、籠に乗せられ港へと運ばれる。 島までの航海に使われる五百石船は、想像していたものよりかなり大きい。 海が身近なものではなかった結城にとって、 船と言えば川を行き来する小舟であり、 このように外洋に出る船を見るのは初めてのことだった。 水主(かこ)達が忙しそうに積み荷の上げ下ろしをしている船着き場の片隅に、 馴染みの顔を見つける。 菊池和政(きくちかずまさ)? 小柄な身体をさらに丸めてこちらに近づいて来る。 制止に入った見張りの役人に何やら握らせると、 柵の隙間をすり抜けて歩み寄ってくる。 「来てくれたのか。」 「こんな結果になって残念です。」 「いや、いろいろと手をつくしてくれたんだろ?  すまなかったな。」 「いえ・・・。力が及ばず申し訳ありません。  でも、必ずあなたの潔白を証明してみせますから。」 「もうあまり動くな。  お前まで同じ目にあうかもしれぬ。」 「大丈夫。 私はぬかりありませんから。」 「俺が抜けてたっていうのか?」 「そうですね。 詰めが甘すぎましたね。」 相変わらず、ずけずけと物を言う。 「ふふっ。   その憎まれ口が聞けなくなると思うと寂しいな。」 「・・・。」 「達者でな。」 「あなたも。 お元気で・・・。」 役人に促されて船へと乗り込む。 甲板から振り返ると、菊池がまだ同じ場所に佇んで 唇を噛みしめているのが見えた。 結城が穏やかな笑みを浮かべ、目顔で別れを告げる。
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