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「ほ~、これは・・・、見事ですね。
色といい大きさといい。」
菊池が手に取って、行燈の近くにかざす。
「だろ? けっこうな金になるぜ。」
「どうしたんだ? これ。」
高光が任せろと言ったのはこれだったのか。
「通常は底引き網に偶然引っかかったのを売買するんだが、
それだと折れて小さいのしか採れないんだ。
だが、実際に海に潜れば、大きくて形もいいのが採れる。」
「こんなの誰が?」
「小太郎だよ。
あいつ、採ってくるのがうまいんだ。
かなり深い所にあるから、誰でもってわけにはいかない。」
「なるほど。あなた方の主な収益源はそれですか。
あの家の蔵書だけでもかなりの物だと思っていました。」
「村人たちは外との交易という発想はないから、
あの島の中だけで流通してるんだ。
俺たちはそれを野菜や穀類と交換してもらうってわけさ。」
「・・・ひとつ、商売をしますか。」
顎に手を当てた菊池が目を細める。
「いいね~。」
高光が即座に呼応する。
この計算高い所、案外いい相棒になりそうだ。
「おいおい、あまり目立つようなことはやめてくれよ。
気付かれたら元も子もないんだぞ。」
「私はそんなへまはしませんよ。」
薄い唇の端を吊り上げる。
「はいはい。そうですか。
どうせ俺は抜けてるからな。」
行平がふてくされたように自分の杯に酒を注ぐ。
「それはお前にやるよ。」
「え?」
「お近づきの印にってやつだ。
女だったらかんざしに細工してきてやるのにな~。」
高光が残念そうに言う。
「は? 何を言って・」
「お前、肌が白いからすごく似合いそうだ。」
「ばかなことを・・・。」
ぷいっと横を向いた菊池の耳が赤く染まる。
「また近いうちに来るから、その時は飯でも食おうぜ。」
「なんで私があなたと・」
「こいつがいなくなって寂しいんだろ?」
「私は別に・・・。」
「ふふっ、無理すんなって。」
高光が楽しそうに笑う。
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