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あれ以来、高光は頻繁に菊池の元を訪ねているようだ。
赤珊瑚の商いも軌道に乗り、島の生活は以前よりも豊かになった。
菊池は、そのおかげもあってか侍所の重要な地位に就き、
決裁事項にもかなり食い込むことができるようになったと聞いた。
これでこの里もとりあえずは安泰だ。
もう四、五年もすれば、落人狩りなどという馬鹿馬鹿しいことも
すたれていくだろう。
「ゆき。 滝に行かない?」
「滝? 今からか?」
「うん。見せたいものがあるんだ。」
見せたいもの?
夕暮れ時、龍に誘われて里を出る。
湯治場が出来てから、あの滝には里の人もめったに行かなくなった。
なんといっても川の水と混じってしまっているため湯の温度が低く、
夏場でなければ入れないからだ。
人の足が遠のいた道はさらに草深くなり、
ともすれば見失いそうになる。
滝に到着する頃には陽はすでに沈み、
茜色の残像が山の稜線を縁取るばかりになっていた。
こんな時刻にいったい何を見せようというのか。
「こっちだよ。 来て。」
足元の石によろけながら川岸へと出る。
以前訪れた時より水量が少ないのか、
流れ落ちる滝の音も幾分静かに感じられる。
と、すぅ~っと目の前を横切って行く光の糸。
「えっ?」
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