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目の前の光景に、思わず息をのむ。
草むらにじっと佇む光と、
黄緑色の軌跡を残しつつゆったりと飛び交う光。
「あ・・・蛍?」
都でもきれいな川に行けば蛍を見ることはできるが、
こんなに多くの蛍を一度に見るのは初めてだ。
辺り一面に蛍の光が満ちて、
まるでそれ自体が一つの生き物のように息づいている。
「すごい・・・。」
「んふっ、でしょ?」
「こんなの初めて見た。」
「一緒に入ろ。」
言うなり着物を脱ぎ棄て、ざぶざぶと川に入っていく。
「えっ? お、おい。」
川の流れは穏やかで、水嵩は深いところでも膝上ほどだ。
「ひやぁっ! ちょっと冷たい。」
川の中ほどで身体を水に浸すと、
すっくと立ち上がり空中に手を伸ばす。
一匹の蛍がすぅ~っと舞い降りてきて、手の甲にとまる。
頭にも一匹、さらには肩にも・・・。
「きれいでしょ?」
惜しげもなくさらされた白い肌に、
蛍の淡い光が映って幻想的な色合い。
「・・・ああ。」
きれいだ・・・。
「来て・・・。」
少し首をかしげて行平を見つめたまま、
蛍のとまった手を差し伸べてくる。
身に着けているものを落とすと、引き寄せられるように川の中へ。
そっと手をとり、指の先に口づける。
目の前の蛍の明滅に、催眠にかかったように何も考えられなくなる。
そのまま手を引いて腕の中へ。
不意の動きに驚いたように、
とまっていた蛍が一斉にふわっと飛び上がる。
一瞬、龍まで一緒に飛んで行ってしまいそうな気がして、
思わず強く抱き締める。
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