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「ゆき・・・?」
物問いたげに見上げてくる瞳が、蛍の光を映して碧く揺らめく。
頤を掬い上げ、そっと唇を重ねる。
「んっ……」
視界の隅に、また蛍の光が・・・。
「こら・・どけよ。」
龍の肩にとまった蛍をそっと手で払う。
「んふふっ、変なの。
蛍と話してるの?」
「ああ。 ちゃんと俺のだって教えてるんだ。」
「じゃあ・・・
ゆきのだって印、つけて。」
「・・・仰せのままに。」
そのまま唇をずらし、紅い花を咲かせてゆく。
「っ……ぁ…はぅ……」
沢全体に満ちた光が、
まるで龍の感覚に連動しているかのように激しくまたたく。
「はぁっ、ゆ…き…ぁっん…っやぁ……んっぅ」
喘ぎを飲み込むように、深く口づける。
やがて・・・
光の明滅に同調するかのような律動とともに
さらに高みを目指す。
「っ!……ぁあっ!!」
龍がひときわ高く啼いて、天を仰いだ瞬間。
ぽぁ・・・・・・・・
光が一斉に舞い上がる。
あっ・・・
熱を放たぬはずの蛍の光が、夜の冷気を追い払う。
まるですべてに祝福されているかのように、暖かな気が満ちる。
この島の自然と祖先の霊に守られ、大切に育まれてきた宝物。
「俺がもらってもいいか?
一生、大事にするから・・・。」
瞳を上げて誓う。
「んふっ、今度は誰と話してるの?」
「今までお前を育んできたもの全てに。」
蛍の光は天空へ天空へと・・・。
やがて星のまたたきと同化して、夜空を満たしていった。
≪完≫
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