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割れない卵
「ママァ、もう一回、いいでしょ?」
おでこに汗をいっぱいかいて髪の毛は貼りつき、すでに白い浴衣のそではびしょびしょのヒナが泣きそうな顔で懇願してきた。
「だぁめ。もう何回目だと思ってるの?そろそろ他のお店にいきましょう?カキ氷買ってあげるから。」
「いやだ!ヒナ、この赤いおっきな金魚さんすくうまで、帰らない!」
真美子はイライラした。
この子さえ居なければ。
絶対に考えてはならないことだが、今までのままなら無い感情が真美子の心に蓄積していた。
真美子は、シングルマザーである。真美子は、派遣フルタイムで最近まで働いていたが、派遣切りで解雇され今は無職だ。真美子は途方にくれた。職場には真美子の同僚で、同じく派遣フルタイムで働いていた百合子も居たが、百合子は残留となったのだ。
「申し訳ないね。我が社も経営が厳しくて。」
人事課長が申し訳なさそうな表情を作って真美子に詫びたが、真美子は騙されない。
「どうしてですか?百合子さんは残留で、何故私だけが?」
そう詰め寄ると、社の方針だとか、上からの命令なので逆らえないだとか、モゴモゴ言っているので、さらに真美子は畳み掛けた。
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