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彼の他に客は見当たらない。
青年は軌道の間にわずかに空いた隙間を通り、一面黒く塗られた天井と壁に囲まれて、白く浮かび上がって見えている沢山の玉を見上げた。
彼はうっとりとその光景にみとれる。
そうして彼はしばらくそこで立ち尽くしていたが、やがて一つの硝子玉が青年の目の前に近づいてくると、彼は視線を落としてその玉の中を覗き込んだ。
ーー硝子の中では、もう一つの小さな球体が透明な液体のようなものの中で、ゆっくりと回っていた。
中の球はまるで小さな惑星のよう……。この店にある硝子玉は、一つ一つが球形のスノードームになっているのである。
「……虫眼鏡がご入り用ですか?」
不意に耳元で声をかけられ、青年は跳び上がりそうになった。
白髪に丸眼鏡の小柄な老人……。この店の店主に違いない。
「ええ……」
青年はぎこちなく返事をし、差し出された虫眼鏡の柄を握った。
虫眼鏡をスノードームにかざすと、中の緑色の球体が拡大されてそのレンズに映る。
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