祖国より

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「――トウガ、お願い! 表の郵便、取ってきて!」  洗い物をしながらクリアが声を上げる。リビングの机に向かって何か書いていたトウガは、顔を上げると、はあい、と元気良く返事をした。そのままぴょんと立ち上がると、飛び跳ねるように外に向かう。  クリアはふと、トウガが書いていたものが気になった。机にはクレヨンが無造作に転がっている。手元の食器もちょうど洗い終わったので、タオルで手を拭きながら机に向かった。  少し身を乗り出して覗き込む。そこに描かれていた絵は、どうやら、洗い物をしているクリアの後ろ姿だ。はあ、と感嘆の息が漏れる。 (……やっぱりこの子、お父さん似ね)  率直な話、六歳にしては非常にうまい。人体の捉え方や色の選び方など、崩れたところがまるでない。これは父親であるタツキも同様で、彼もやはり幼少期から、絵画について抜群の才能を見せていた。一時期はそれで生計を立てた経験もあるほどである。 (お父さん似で良かったわ。この子の未来は、その方が広がるに違いないもの)  トウガの父親は、何が出来ないのか分からないほど何でもこなす男だ。彼の才覚がそのまま息子にいけばいいとクリアも常々思っていたので、トウガに父の面影を感じると少し嬉しくなる。性格は、豪快な父親に比べるとかなりおっとりしているが、少々のことでは動じないようなので、その辺りはさすがといったところか。
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