プロローグ

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 それから、中の返事も待たずに扉を引く。駄目ならここに来るまでに大人たちが止めてくれるはずだから、何も言われないということは、こういうことをしてもいいという意味だ、とトウガは解釈していた。 「――こんにちはっ!」  扉の向こうでは、彼の見知った顔が勢揃いしていた。椅子に座っているのは、一番隊の副隊長を務めるギルバート。治癒術士のフローラは、双子隊員の弟フィルに何やら術をかけている。ここまでは一番隊の隊員で、あと一人は薬剤師のティナがいた。ティナは元一番隊員と聞いているし、トウガ自身も旧知の仲だった。 「お、トウガ君、こんにちは」  最初に笑って対応したのはバート。トウガは一番隊員室をきょろきょろと見回し、首を傾げる。 「ふたり、いないような気がする」 「うん、ちょっと用事でね。でもすぐ帰ってくるよ。待ってるかい?」 「待ってる!」  にかっと歯を見せて笑うトウガは、今年で六歳になる。その純粋無垢な笑顔をティナが頬杖をつきながらまじまじと眺めた。 「はー、素直で可愛いもんだわ。母親似に違いないわね」 「顔はしっかりお父さん似だけどねー」  椅子にぴょんと飛び乗り、ふんふんと鼻歌を歌いながら足をぶらぶらさせるトウガに、ティナとバートとは顔を見合わせて笑った。
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