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序
空が高い。
北鵜野森町へ向かう坂道から見下ろす町並みには葉を落とし、あるいは朱く染めた木々によってすっかり晩秋の空気が漂っている。
駅前なんかは既に気の早いクリスマス商戦を意識した店の宣伝で溢れているし、制服の上に薄手のコートを着た僕らも冬の到来が目前に来ている事を肌で感じ始めていた。
「宗一郎さんて、面白い人だね」
「爺ちゃんが?」
「少し前に、洋子さんが風邪で寝込んだ時の話」
「何かあったの?」
「私がお夕飯作りに行ったら寝てる洋子さんの横で、ずっと難しい顔して腕組みして座ってるの」
「……」
「心配だったんだろうけど、洋子さんに『気が散って全然眠れませんよ』なんて言われてて」
「爺ちゃん……何してんだ」
「でも洋子さんも満更でもない感じなのが何だか微笑ましくて」
僕の隣を歩きながら、同じクラスの日野さんが思い出し笑いをしていた。
夏の終わり頃からよく話す様になって、その頃に起こったとある事件以来頻繁に僕の実家である鵜野森神社に出入りしている。
複雑な事情もあって当時は感情が極端に表に出にくい子だったのだけれど、今では咲と言う名前に負けないほど喜怒哀楽様々な表情が見られるようになりつつある。
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