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曲名なんかはさっぱりわからない僕と違って、日野さんは何だか新しい楽しみまで見出しているようだった。
「しかしまあ――」
圭一さんがこちらをチラリと見てニヤリと笑う。
「学校帰りにこんな古い喫茶店でデートとは、今時の子にしちゃ君達随分と粋じゃないの」
「ち、ちょっと?」
「まーた恥ずかしがったりしてイイねえ若い子は」
「か、からかわないでよ本当に――痛い!」
何故かわからないけど下を向いて顔を赤くした日野さんに腕を抓られた。
「おや?違うの?本当に?僕ァてっきり君らそう言うんだと思ってたんだけどサ」
「……いやまあ……違うと言うか違わな――痛い!痛い!」
何なんだ。
どう答えたらいいんだこれ。
「アッハハ……若いねエ」
圭一さんは僕らのやり取りを眺めて笑っている。
「……そう言う圭一さんは昔どうだったんですか」
僕が恨めし気に見上げて言うと、圭一さんは少し遠い目になる。
「僕かい?まぁ、そうだねェ……。大学出て、親父がやってた食堂改装してこの店初めた頃は、そりゃ僕だって青春してたんだヨ」
「その頃って言うと……七十年代?」
「流石に八十年代に入ってたヨ。まいったな、僕そんなに年寄りに見えるかい?」
「いや、その、あはは……」
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