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いくら背筋もピンとしている紳士と言ったって家の爺ちゃんや婆ちゃんより歳は上なのだし、僕らから見たらそう言う話である。
「宗一郎と洋子クンは若くして結婚した頃でね。いやあ、見てる方が恥ずかしいくらいラブラブだったなぁ……ああでもあの二人は今でもそうか」
圭一さんの話に僕と日野さんは顔を見合わせる。
……何だかとんでもない話が飛び出してきたぞ。
「圭一さん」
「その話、詳しく」
身を乗り出す僕らを見てしまったと思ったのか、
「え、ああー……いやほら、あんまり本人達の許可なく話すのもアレじゃないかナ?」
「残念」
「なら、やっぱり圭一さんの話を」
「一人やもめが長いオジサンの昔話なんて聞いたって面白くもないでしょうに」
「圭一さんには、そう言う話無かったんですか?」
……日野さん結構ストレートに凄い事聞くなあ。
「馬鹿言っちゃいけないヨ。これでも若い頃は大恋愛だってしたもんサ」
「相手は」
「……近い近い。咲クン近いヨ」
興味がある話題が出ると真顔で近付く日野さんの癖は相変わらずである。
圭一さんは淹れ終えたコーヒーを僕らの前に出し、日野さんを座り直させる。
コーヒーから立ち昇る湯気と一緒に、鼻孔を擽る香りがした。
一口啜ると、フルーツみたいな香りと一緒に、ほんのりと酸味が広がって行く。
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