シーソーゲーム

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 「もしかして、杏子?」  終電の車中、シートに座るわたしに声をかけて来たのは高校時代の同級生、幸田美咲(こうだ みさき)だった。  「美咲、ほんと久しぶりね。何してんの?」  思わぬ再会で嬉しいけど、こんな時間に電車に乗って来るなんて、何をしてたのか気になったので訊いてみた。  「仕事が終わって、会社の人たちと飲んでたのよ。その仕事も、もう辞めるけどね......」  美咲はうつむき加減で呟くように、そう答えたけれど、仕事をもう辞めてしまうって、どういうことなのか気になる。職場でイヤなことでもあったのか、とんでもないブラック企業だったのか。  訊きたい気持ちはあるものの、訊かれたくないことだってあるだろうとわたしは訊かないでおこうと思った。 傍らで、せっかく再会したんだし、わたしたちはもう大人。一杯ひっかけながら、愚痴を訊いても悪くはないと考えもした。 だからと言って突然「飲みにいこう」と誘うのも厚かましい気もするので、一言だけ返事をした。  「......そう、なんだ」  「ことぶき退社だから、今夜は会社の人たちがお酒奢ってくれたのよ。私、感激しちゃって」  美咲の言葉に、わたしは頭がまっ白になった。  「......結婚、するんだ」  「そうなのよ。どうしたの、そんな顔して」  美咲は不思議そうな顔で、そう言った。結婚するなんて意外だった。  
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