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 鳥居が朱い理由には諸説あるけれど、呪術的な意味合いが込められているという。  炎、太陽、生命の躍動、魔よけ、もしくは血の色。  古来、染料には水銀やヒ素を含む朱が使われており、当時貴重であったそれは虫よけや防腐剤の効果も持っていて、実用的な面もあったらしい。  今月入ったばかりの民俗学研究室のゼミで習った事を思い返しながら、野々宮佳太(ののみやけいた)は古びた小さな鳥居を見上げた。  ここは江東区の下町にある「銀蛇水神社」という神社だ。  清澄通りから小道に入り、築年数が五十年以上は経っているであろう昭和の雰囲気漂う住宅が立ち並ぶ一角に、ひっそりと佇んでいる。  この周辺には全国的に有名な富岡八幡宮や、深川明神宮といった神社があって、銀蛇水神社を知っている人間は地元の人間くらいではないかと思う。かくいう佳太も大学から東京に出てきたくちなので、今日まで知らなかった。  なぜそんな寂れた神社にひとりで訪れたかというと、この神社にお参りすると、ある「ご利益」があると聞いたからだった。 (とはいっても、夜中に来なくてもよかったよな……)  黒縁眼鏡のブリッジを押し上げて、薄暗い境内を眺めながら、佳太は溜め息をひとつ落とした。  別に佳太は格別ひとよりも怖がりという訳ではない……と思う。というか夜中の神社は誰であろうと明るい気持ちになる場所ではないし、そんなの小学生でも予想のつく事だ。なのに、いざ来てみると怖気づく自分にウンザリする。  神社の両隣は、錆びたトタン屋や風化したコンクリートの外壁、それに這うツタ、といった年代を感じさせる家に挟まれていて、その家々の明かりも落ちている。そもそも誰も住んでいないのかもしれなかった。
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