777人が本棚に入れています
本棚に追加
/323ページ
*大脱走の果てに・1*
「それじゃ、荷物纏めろよ」
「は?何で?」
予想もしなかった、月山薫のいきなりの提案に面食らった。
「帰るんだよ」
「何処に?」
「日本に決まってんだろ」
「誰が?」
「俺と、お前が」
「嫌だ」
「はぁ?」
俺の答えは予想外だったのか、今度は月山薫が、面食らったように驚きの声を上げる。
「だって、そうだろ。何で、帰らなきゃいけないんだよ。意味分かんねー」
俺の言葉に、月山薫のこめかみがピクリと引き攣った。
「じゃあ、何か?てめえは、このまま、ここに残るって言ってんのかよ?」
「当たり前だろ。あと二週間ちょっとで留学が終わるのに、何で、中途半端にいま帰んなきゃいけないんだよ。勿体無いだろ」
「はぁ?二週間ちょっと?」
どういう訳か、月山薫の頭の上にハテナマークが沢山見える。
え?
なに?
どういう事?
「だって、お前、村沢に…」
「あ、うん。ちゃんと村沢さんに言ったよ。春休みの間、短期留学に行って来るって」
「…………」
そう答えた時の、月山薫の何とも言えない表情を、きっと一生忘れないと思う。
最初のコメントを投稿しよう!