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ガックリと項垂れて、月山薫は右手で顔を覆う。
「………やられた」
「へ?」
「村沢に、してやられた。あいつ、俺に、『お前は、留学で五年帰って来ない』って言いやがった」
…………村沢さーん。
あの、人の良さそうな、爽やかな笑顔の村沢さんの顔が頭の中に浮かんだ。
あの人……侮れないな…。
そこで、ハタと気付いた。
「もしかして、大学の前に立ってた時、めちゃくちゃ怒ってたのって、それが原因か?」
聞いてみると、月山薫はグッタリとした様子で俺を見た。
「……まさか、村沢に踊らされてるとも知らずにな」
「あはは…」
苦笑しか出て来ない。
でも……。
「でも、村沢さんの、お陰かな?」
俺が、そう言うと、月山薫は、苦虫を噛んだような渋い顔を見せる。
「……納得できねえけどな」
そうして、お互いに見つめ合い、二人して吹き出して笑い合う。
気が済むまで笑うと、スッと月山薫が立ち上がった。
「そんじゃ、行くか」
「うん」
釣られて、俺も立ち上がる。
そして、肩を並べて歩き出した。
「腹減ったな」
「じゃあ食べに行く?美味しい所、知ってる」
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