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*現実…・2*
Hiding placeに着くと、全力疾走で上がった息を、深呼吸をして整えてから扉を開けた。
流れてきた耳に心地いいジャズの音楽が、自然と気持ちを落ち着かせてくれる。
「いらっしゃい、桜庭くん」
レジカウンターにいた村沢さんが、笑顔で俺を迎えてくれた。
「こんばんは。色々と、すみませんでした」
「気にしなくていいよ」
謝る俺に、優しい笑顔を向けてくれる。
迷惑掛けたのに……本当に良い人だ。
「月山、奥にいるから。俺は、ちょっと裏に行くけど、何かあったら従業員の子か、俺に遠慮せずに声掛けて」
「あ、はい。ありがとうございます!」
「……月山、今日、ちょっと機嫌悪いみたいだから、気を付けてね」
心配そうにそれだけ言い残して、村沢さんは.「じゃあ」、と裏の方へと行ってしまった。
機嫌が悪い……。
そりゃ、そうだ。
二時間も待たされれば、誰だって不機嫌にもなる。
レジカウンターを通り過ぎ、店の奥、BARの中へと移動する。
お酒を作るスペースに、バーテンダーが一人。
恋人らしき二人の客だけが座っている、カウンター席。
そして、誰も座っていない、幾つかのテーブル席。
その更に奥の方に、照明を浴びて、艶やかな黒い色彩で存在を主張する、一つのグランドピアノ。
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