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いつ見ても綺麗だな……。
自然と、吸い寄せられるようにしてピアノの方へと歩いて行くと、伴奏者が座る椅子に、誰かが座っている事に気がついた。
照明の下で、眩いばかりに光を放つ金色。
サラサラな髪。
彼、月山薫のトレードマークである金髪が見えて、ドキリと胸が跳ねた。
……えーっと…眠ってらっしゃる?
閉じられた鍵盤蓋に顔を伏せていて、どんな表情をしているのか、さっぱり分からない。
よくよく見ると、譜面板の横のランプ台の上に、お酒が入ったグラスが置いてある。
……飲んでるよ、この人。
いや、二時間も遅刻されたんだから、そりゃ飲みたくもなるだろうさ。
しかも、ここはBARだ。
さて、どうしたもんか?
これは、起こしてもいいんだろうか。
気持ち良さそうに寝ている姿に、安易に起こすのは、少々躊躇う。
しかし、ここまで来て、『じゃあ帰ります』なんて言うつもりは毛頭ない。
申し訳ないが、やっぱり起きてもらおう。
「あ、あの…!」
憧れの人が、手を伸ばせば触れられる距離にいる。
そう思ったら、声が変に上擦った。
うわー…だっさい、俺。
んっん!と意味もなく空咳をすると、もう一度声を掛けてみる。
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