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あの子と私
滴り落ちた水で、せっかく描いた絵が崩れてしまう。
「あ…」
声が漏れた。
だが、幼い私はまだ、ひっきりなしに垂れる水に気付いていない。
たっぷり水気を含んだ筆を握り締めたまま、目線は向こうへ釘付けになっている。
いつも、ちょっぴり寂しい絵画教室。
今日はやけに騒がしい。
きっちり制服を着た中学生と、センセイが輪をつくっていた。
_凄いね、とか
_天才、とかいう声が、
さっきからずっと、聞こえてきている。
「…」
八の字眉毛で机に向き直った私は、ここでようやく傑作が台無しになっていると知る。
水彩絵の具は、水によく溶ける。
目の色に使った黒が広がって、絵が汚れてしまった。
慌ててポケットを掻き回し、引っ張り出したティッシュを叩き付ける。
パンッ、パンッ、…
私は涙目で絵をこすった。
色は落ちず紙が削れる。
茫然とする私を、一部が破け、黒ずんだクマが睨み付けていた。
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