第11章

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そんなところだけは、自分たちはよく似ているのかも知れない。 「芳美さんが亡くなる直前にお見舞い入ったとき。あのとき、本当は病室まで来ていたのね?」 母は断定的に尋ねてきた。やはりあの日の裕幸の異変に気づいていたのだ。 かろうじて頷き、視線を落とすと、母が手に提げていた大き目の封筒が目に入った。おそらく取りにいった写真が入っているのだろう。 それがアルバムには貼られていないことで、裕幸はまたあのひとが哀れになる。 「そうか、お前、知ってたのか。今までずっと黙っていてごめんな。知ってたんなら、もっと早く話せば良かった。俺にとってお前は実の子どもと一緒だと思っていたし、あいつが望まないのなら、話したくなかった。だけど、お前が知らないままじゃ、あいつがあまりにも不憫で…」 「私たちだけの意志ではなくて、久我のご両親の意向もあるの。戸籍上はあなたは私たちの子だけど、あなたは久我の家の子でもある。お父様は亡くなってしまったけれど、お姉さんもいらっしゃるし、本当はふたりともずっとあなたに会いたがっている」 真摯に視線を合わせて訴える母の声が耳を上滑りして、心が納得することを拒否している。 立て続けに明かされた予想外の事実に、裕幸も平静ではいられない。 だって、永い間ずっと、自分の存在は罪の証だと思っていたのに。 「これだけは知っていて欲しい。私もお父さんも久我も、久我のご家族の方もみんな、裕幸の命に感謝している。あなたは望まれて産まれてきたのよ」 そう言って涙を溢れさせた母を、父は無言で抱き寄せた。 そんなふたりを見守る裕幸の心は離れたままだ。 ずっと自分ひとりで生きているような気がしていた。周囲のおとなたちがこれまでどれほど自分を気遣っていたのかを聞かされても、すぐには受け入れられない。 嬉しいのか、悲しいのか、寂しいのか。もっと早くに打ち明けていたら、という悔恨と、重すぎる秘密から解き放たれた安堵と。 感情のふり幅が激しすぎて、自分でもまだ上手く飲み込めない。 ただ無性に亮の声が聞きたくなった。会って抱きしめることが出来たら、そうしたら少しはこの胸の痛みをほどくことが出来るのかも知れない。 「もし良かったら、一度久我のおうちに行ってみない?」 母は恐る恐る尋ねてきたが、その訊き方があまりにも慎重で、裕幸はつい笑ってしまった。 母がどう答えて欲しいのか、透けて見える。
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