第11章

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「必要ないよ。オレのお母さんとお父さんは、あなたたちだけでいい」 首を振って笑顔を見せると、案の定、父も母もほっとした顔になった。 この期に及んで両親が望むだろう応えを返してしまう自分がつくづく嫌になるが、急には変われない。 これまでずっとそうやって生きてきたのだから。 聞かされた出来事を消化しきれない頭は、ふわふわとして頼りなく、もう限界だった。 今はただ、早くひとりになりたい。 「いっぺんにたくさん聞かされて、まだよく分からないや。今日はもう寝るね」 音を立てて椅子から立ち上がり、さりげなく両親に背を向ける。 胸の中は嵐のように吹き荒れていて、とてもじゃないけどまともに話せる気がしない。 それに、さっきから妙に寒い。やっぱり熱が出たのかも知れない。 「この写真、」 すれ違いざまに母は封筒を渡そうとしてきたが、首を振って通り過ぎた。 「ごめん、今はまだ見たくない」 廊下に出ると、ドア一枚を隔てただけなのに冷え切っていて、いっそう背筋が震えた。 手にも足にも力が入らなくて、立っているのがやっとだ。 ともすれば座り込んでしまいそうなからだを何とか自室まで引き摺って、扉を閉めると安堵のあまり膝から崩れ落ちた。 亮に会いたい。 会って声が聞きたい。 縋るように抱きしめて、泣いてしまえたら、きっと楽になれる。 這うようにしてベッドサイドに向かい、携帯電話を手に取ると、それだけで気分が少し気分が落ち着いた。 時計の表示を見ると、まだ深夜というほどの時間でもなくて、きっと亮は起きていると思う。 亮の電話番号を表示させたところで、崩れるように意識がなくなった。 携帯電話を握り締めたまま眠る裕幸は、滅多にないほど深い睡魔にさらわれた。 夢は見なかった。
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