第12章

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そこまで考えて、もしかしたら裕幸の声が、単に亮の好みなのではないかと思い至った。 そういえば裕幸の想いに気づいたのも、変声期を過ぎた彼の声がきっかけだった。知りたくなかった事実に気づき、愕然としてしまう。 自覚するとなおさら羞恥に駆られ、八つ当たりのように拗ねた声が出た。 「やっぱり。あんな雪の日に、外で待ったりするから」 『うん、まぁ、それも原因の一つだとは思うんだけど』 「他に理由があるの?」 落ち着かない気分のまま立ち上がり、窓に近づいてカーテンを開ける。 ガラスに映りこんだ自分の影を覗き込むと、濃藍の寒空には満月に少し足りない月が、朧気に輝いている。 『実は…両親にカムアウトしたんだ』 「…え?」 うっすらと雲がかかった淡月を眺めていた亮は、裕幸の言葉に息を飲んだ。 『亮さんに告白して、付き合ってもらえることになったって言った。勝手にごめん』 裕幸がその性嗜好を変えられないのなら、いっそ両親に打ち明けた方がいいとは思っていた。そうでなくても彼が大切に抱えているものは、いつだってずっしりと重たく裕幸に圧し掛かっていて、出来ることなら少しでも楽にしてあげたかった。 いつか裕幸が打ち明けるときには、きっと自分がその横に立って、防波堤のようなものになれたら、と思っていたのだが…よくよく考えてみれば、裕幸の性格上、彼が亮の居ないところで先に打ち明けることは想像に難くなかった。 考えが足りなかった己を、胸の裡で悔やむ。 「そっか。ずいぶんと行動が早かったね。もう少し悩むかと思ってたよ」 『うん。亮さんに受け入れてもらえたこととか、大学合格したこととか、高揚感でふわふわしてて。なんか勢いで言っちゃった。…ひょっとしたら、熱があったせいもあるかも』 「あぁ、なるほど」 その先を訊くのが、本当は少し怖い。 本人に言えば怒るかも知れないけど、長らく亮は保護者めいた目で裕幸を見守ってきた。特にこの件に関しては責任の大部分が自分にあるので、案じずにはいられない。 電話を握り直し、恐る恐る問いかける。 「その、…親御さんは、何て言ってた?」 『それがさー、聞いてよ、亮さん!母さん、オレが同性愛者だ、ってこと知ってたみたい』 「…そうなの?」
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