第12章

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屈託なく跳ねるような返答に拍子抜けして、知らず気を張っていたからだから力が抜けた。 窓枠にもたれかかると、ガラス越しに冬の冷気が伝わってくる。 『オレが中学生の頃、オレの部屋でゲイ雑誌見ちゃったんだって。さすがに凹む』 「でも、そのおかげで、声高に反対されなかったんなら、良かったじゃない」 しょんぼりと力ない声を出されると、可哀想になってしまう。条件反射的に慰めつつ、冷静に思い返してみると聞き逃せない単語があった。 「今ゲイ雑誌って言った?そういうの読むの?」 『え?あぁ、まぁたしなみ程度には。最近はほとんどネットが多いけど。亮さんは見たことないかな』 「うん……」 亮は本好きの常で、書店に足を運ぶのもかなり好きだ。それなりに雑誌コーナーだって見たことがあるはずなのに、そういう本の存在すら認知していなかった。 「そういえば、うちの図書館でも同性愛を扱った専門誌は取り扱ってないな。後学のために、一応目を通して置いた方がいい?」 『いや絶対に見ないで!亮さんは実施で学んだ方がいいと思う!うん』 妙に慌てふためいた様子の裕幸の即答に、首をひねる。 「でも、図書館で取り扱わないのは一種の差別にならない?」 『わぁ、さすが亮さん真面目だね!えぇと、その…その手の雑誌って、あの、ジョークが過激というか、不健全な内容のが多いから、どっちにしろ図書館には置けないんじゃないかな』 「不健全?」 言われた言葉をよく咀嚼して考えてみれば、なるほど裕幸の意図することがうっすら理解できた。 確か彼は中学生の頃に親に見つかった、と言わなかったか。中学生といえば、一般的に性的なことに興味が出てくる年頃だ。 なるほど、それは確かに母親に見られるのは嫌だろう。 亮の沈黙をどう誤解したのか、裕幸は完全に弱りきった声を出した。 『…頼むよ、亮さん。曲がりなりにも男同士なんだし、分かるでしょ?』 「………え、いや、それならそれで見ておいた方がいいのかな、って考えてたんだけど」 『!』 大真面目に応えたら、受話口の向こうで裕幸は派手に咽た。 裕幸の方こそ、亮のことを一体何だと思っているのだろう。あまり性的なことに積極的ではない自覚はあるが、普通に恋人が居たことはあるし、裕幸よりもずっと年上の、ちゃんとしたおとななのに。
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