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「僕はガラケーで困ることはないよ」
会いたいことと、携帯電話の機種を替えることがどう結びつくのか分からず、首をひねる。
自分とたった七つしか年が離れていないとは思えない、亮の物分りの悪さに、裕幸はため息をこぼした。
『ラインのが連絡しやすいんだけど!』
そうは言われても、電子機器に疎い亮に、新しいツールをそうたやすく使いこなせる気がしない。
「メールでいいよ」
苦笑して応えると、間髪居れず、ほとんど恨めしそうに裕幸は呟く。
『オレ、ほとんどラインでやりとりしてるから、メールだと気づかないこととかあるかも』
その点に関しては、亮は自信があったたので胸を張って応えた。
「滅多にメールしないから大丈夫」
『お互い実家暮らしで、なかなか二人きりになれないね、って今話してたのに滅多にメールもくれない気なの……?』
不信感溢れる裕幸の詰問に、しまった、と思ったが後の祭りだ。
さりとて、マメに連絡する、などと出来そうもない口約束も出来ず、言葉に詰まる。
七つも年下の子どもすら上手くあしらえない、自分の不器用さが物悲しい。
無言で落ち込んでいる亮にも裕幸は慣れたもので、ひとりで気を取り直してくれた。
『じゃあなるべく電話するから』
甘やかな少し拗ねた声色で言われると、不穏な予感が背筋を伝う。
どう聞いたってはっきりきっぱり裕幸の声は男性のそれなのに、どうしてこれほどまでに心がざわめいてしまうのか。
知りたくなかった己の性癖を突きつけてくる、電話は鬼門だと首を振った。
「電話は、ちょっと……」
『…………今オレ、遠まわしに振られてます?』
「ち、違うよ」
いつもはやわらかい裕幸の声が、聞いたこともないほど低くなってしまった。慌てて宥めるように付け加える。
「どちらにしろ一人暮らしはするつもりなんだ。実家よりは来やすいだろうから、遊びにおいで」
『…そうなんですか?それは楽しみだね』
ようやく機嫌を直してくれた年下の恋人にほっとして、だらしないと思いつつ、腰掛けていたベッドに寝転がる。冷たいシーツが、火照った頬にあたって気持ちがいい。
裕幸は、今まで亮のそばに居たどのタイプのひととも違う。恋人も友人もほどよい距離感で付き合ってきた亮は、こう易々と振り回されることはなかった。
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