第13章

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長引いた風邪がようやく治ってから、一度は本気で就職しようとしていたバイト先に、無事合格したことを報告しに行った。 店長の返事は素っ気なく、「そりゃおめでとさん。で、いつからバイト入れる?」だった。 こちらが答えあぐねている間にがっつりシフトに組み込まれ、その翌日からそれなりにハードに出勤している。 数日後に控えた卒業式、その後に続く新生活。初めての恋人や、親との関係など。めまぐるしい変化に心がついていかず、最近の裕幸は少し不安定だ。ふとしたときに心が騒いで、沈み込んでしまいそうになる。 折りしも高校は卒業前の自由登校期間中。休みなく働いていた方があり余る時間に何も考えなくて済み、楽だった。 だけど今日は、バイトを半日で切り上げてもらった。亮が休みだというので、久しぶりにゆっくり会えることになったのだ。 待ち合わせ先のファーストフード店へ向かう自転車を漕ぐ、裕幸の足取りは軽い。 ごちゃごちゃとした駐輪場に自転車を停めて、店内に入る。手早くレジで会計を済ませ、トレイを手に持って二階へ上がると、亮は窓側の席で文庫本を読んでいた。 「亮さん!」 声をかけると亮は夢から覚めたように、目をぱちぱちと瞬かせてこちらを見上げてくる。こんなうるさい店内なのに、読書に没頭していたのかもしれない。集中すると周りが見えなくなるのは昔からだ。 「裕幸くん、」 「もー、仕事休みの日、もっと早く教えてよ!そしたらバイトなんか入れなかったのに。中々亮さん連絡くれないし、オレずっとガマンしてたんだよ」 背中からかばんを下ろしつつ、座り心地の悪い椅子に向かい合って腰を下ろす。亮のトレイには、コーヒーらしきドリンクと、一応何かを食したらしい紙包みが几帳面に折りたたまれて置かれていた。 「ごめんね、ずっと忙しくて」 亮は困ったように微笑みながら、自分のトレイを手元に引き寄せてくれる。 ありがたく空いたスペースに持ってきたトレイを置きつつ、二人で使うには小さすぎる一つ足のテーブルに感謝した。 ファーストフード店の良いところは、ただ向かいに座るだけで距離が近くなるところだと思う。 「特別整理期間だっけ?それって具体的には何しているの?」 窓から差し込む淡い春陽が、ふんわりと笑う亮を照らしている。 ストローを紙コップの蓋に差し込みつつ、ドキドキしながら尋ねると、亮はやわらかそうな微笑をいっぺんに曇らせた。
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