第13章

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「亮さんって公務員なんですか!?似合わなねー!」 「似合うも似合わないも、僕はちゃんと採用試験にも合格した市の職員です」 拗ねた口ぶりの抗議を聞き流しつつ、包み紙を破ってハンバーガーにかぶりつく。 早い安いが取り得のこの店は、とにかく熱い内に食べなきゃ美味しくない。がつがつと咀嚼する裕幸を呆れたように亮は眺めていたが、ふと思いついたように腰を浮かせた。 「すごい食欲だね。追加で何か買ってこようか?」 「要らない。財布、しまって」 亮に言ったら苦笑されるかも知れないが、食事をする度に毎回奢られてしまうことを、裕幸はそこそこ気にしている。それこそ、学生と社会人の差を誇示されているような気がして。 ファーストフードなら安いし、別々に入店すれば自分で支払うことが出来ると思ったのだが、失敗だったかも知れない。 裕幸自身も、わりと人目を引く容姿をしていると自覚している。年齢も雰囲気もバラバラなふたりの取り合わせはちぐはぐで、好奇心をくすぐるのか、妙に視線を感じて居心地が悪い。 ただ外で会って食事するだけでこれじゃあ、先が思いやられる。 「もう食べ終わるから、ここ出よう」 最後の一口を半ば強引に口に詰め込んで席を立つ。ゴミを捨ててから階段の踊り場で振り返ると、混雑した狭い店内に亮は取り残されていた。 仕方なく細い手を引いて歩くと、亮は無言でついてくる。しかし店の裏にある駐輪場に着くなり、繋いでいた手を振り払われた。 「何だよ」 思わずむっとして低い声を出すと、亮は目を伏せた。 「だって……」 口ごもり、繋がれていた手をもう片方の手で掴んでうつむいている。 「ひょっとして亮さん、手ぇ繋いだこと照れてる?」 他に該当する可能性のある理由が見当たらなくて、反論されるのを承知でからかってみる。 こういうときは、心の準備が必要だ。覚悟しておかないと、恐ろしいほどに真顔で何が?などと聞き返され、自分で訊いておいてざっくり傷つき落ち込むはめになる。 しかし、そうだったらいいな、という希望を多分に含んだ揶揄に、亮は押し黙ったままだった。 「もしかしてマジで!?」 思いがけない反応に、裕幸はつい驚愕を露にしてしまった。 驚かれた本人は当然面白くないらしく、限りなく無表情に近い眉をほんの少し顰めた。
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